[解説]
メッセージ性の強い服で知られるブランドです。2004年の米大統領選を数週間後に控えた2005年春夏ニューヨークコレクションでは、カーキ色のミリタリーウエアに身を固めた兵士風のモデルが登場。イラク戦争を想わせる映像も流され、反戦のメッセージを強烈に打ち出しました。モデルには古代ローマの巫女(みこ)のようなドレスを着せ、平和への願いをアピール。皮ひも編みのサンダルや、フード付きチュニックなども持ち込み、アイデアの豊富さも証明しました。
「米国で最も数多く女性誌の表紙を飾る女優」ともいわれるファッションリーダーの女優、クロエ・セヴィニー(Chloe Sevigny)がクリエイティブディレクターを務めてきました。セヴィニーは映画「ボーイズ・ドント・クライ」で主演女優のヒラリー・スワンクの相手役を演じて、米アカデミー賞の最優秀助演女優賞にノミネート。大物女優のニコール・キッドマン主演の「ドッグヴィル」、ヴィンセント・ギャロ監督の「ブラウン・バニー」にも出演しました。モデル出身のセヴィニーは「プラダ」の妹ブランド「ミュウミュウ」のイメージガールに抜てきされたこともあります。
主任デザイナーのタラ・サブコフ(Tara Subkoff)氏も女優です。歌手で女優のジェニファー・ロペスが主演した映画「ザ・セル」に出演しました。セヴィニー主演の「ラスト・デイズ・オブ・ディスコ」では共演しています。当初はサブコフと、メリーランド美術大学中退のマシュー・レヴィ・ダムハブ氏とのコンビで始まったのですが、今ではサブコフ氏がソロでデザインを手がけています。
セレブリティー好みのきらびやかなドレスで有名です。ブルゾン風の切り替えミニドレスやベビードール・ドレス、ミニドレスなどが過去に高い評価を得ました。そうかと思えば、白地に黒で有刺鉄線を描いたTシャツなど、パンキッシュなアイテムも生み出しています。色遣いは黒、ブラウン、白が多く見受けられます。
「イミテーション・オブ・クライスト」を特徴付けるのは、古着を大胆に創り直したブラウスやTシャツなどのリメーク物でしょう。ヴィンテージ物からインスパイアされつつ、オリジナルを解体して、全く新しいモデルに再生してしまう。ブランド名にも通じる挑発的な試みで、ニューヨークのファッションシーンにロケット花火を打ち込んで見せました。
その手法に対して、一部では「あれはクリエーションではない」といった批判も聞かれます。しかし、世界的なヴィンテージブームの中、彼女の着想はあらためて評価を得ているようです。
ファッションエスタブリッシュメントに対する攻撃的な姿勢もサブコフ氏の存在を米国ファッション界で際立たせています。通常とは全く逆に、モデルは動かず、観客やバイヤーがモデルの周りを歩いて回るというスタイルのコレクションは論議を呼びました。電話ボックス大の移動店舗をコレクション期間中、マンハッタン各地の路上に出現させ、商品を売り回るというゲリラプロモーションも展開したことがあります。
米国では「バーニーズ・ニュヨーク」や一部のセレクトショップなど、先端的な店舗が取り扱っていますが、日本では大々的に扱っている店はないようです。単にファッションを「消費」するのではなく、デザイナーのメッセージを共有する楽しみもありそうです。
●ブランドデータ
[本国] 米国(ニューヨーク)
[経営・日本での展開]
日本法人はない。セレクトショップでの展開が中心。
[歴史]
女優のクロエ・セヴィニーがクリエイティブディレクターを務める形で、2000年9月に「イミテーション・オブ・クライスト」ブランドでニューヨークコレクションに初参加した。イーストヴィレッジの葬儀社で葬式風の演出で開いたこのショーでは、コレクション初参加にもかかわらず、ファッションプレスのビッグネームしか招待しないという、新人離れしたアプローチでエリートジャーナリストたちを巧みに取り込んだ。
「イヴ・サンローラン」の昔のシャツに、当時の主任デザイナー、トム・フォード氏を批判するメッセージを書いた作品が話題を呼んだ。フォード氏はこのころ、「イヴ・サンローラン」の後継者に選ばれたばかり。「イミテーション・オブ・クライスト」の主任デザイナーであるタラ・サブコフ(Tara Subkoff)氏は「グッチをだめにした」と、フォード氏の手腕をこきおろしたという逸話もある。
サブコフ氏は1974年米国生まれ。ブランド立ち上げ当初のパートナーだったマシュー・レヴィ・ダムハブ氏は79年生まれ。2人はサンフランシスコ市のロックバンドのライブで出会い、意気投合したという。
ファッションショーの構成の斬新さで有名だ。その演出はファッションジャーナリズムをいい意味でからかうかのようだ。2001年9月のコレクションではモデルを立たせ、観客がその周りを回るという「主客転倒」型の演出を採用。2002年2月にはコンビ解散を公表した。その際もファッションジャーナリストをオークション参加者に見立てた模擬オークションを開いた。ダムハブ氏が去った後、ダニー・セオ氏が2002年から参加したが、約10カ月後の2003年2月に離脱。以後は、サブコフ氏が単独デザイナーとなっている。
「イミテーション・オブ・クライスト」という一風変わったブランド名は本のタイトルから取られている。その本とは、15世紀ドイツの修道院長だったトマス・ア・ケンピス(Thomas A Kempis、1380〜1471)の著書『De Imitatione Christi』。修道士がキリストの教えに従って生きることを説いた本で、世界中で聖書の次に広く読まれた書物だともいわれる。「誰がそう言ったかを尋ねないで、『言われていることは何か』を心に用いなさい」という名言が載っている。邦訳は『キリストにならいて』(岩波文庫刊)。
サブコフ氏はインタビューに答えて、「自分たちをキリストと比較する気はない」と前置きしたうえで、キリストのしたことを既成の社会に対する前向きな「改革」であると述べ、自分たちが既成のファッション界に対して同じようなスタンスで臨む決意を示している。
[現在のデザイナー] タラ・サブコフ氏
[キーワード] メッセージ性、リメーク、ヴィンテージ、社会派
[魅力、特徴] ハンドメードの一点物ばかりで、入手困難な超レアアイテム。1着持っているだけで、ファッションマニアとしての格が上がりそう。反戦、反ブッシュの人にとっては、服を通して「LOVE&PEACE」を主張することもできるかも。
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